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なぜ多額の費用をかけて調査をしても意味のある結果が得られないのか?(2)

執筆者の写真: ATLATLATLATL

更新日:2019年9月13日



事業戦略やマーケティングプランを作る順序

事業戦略やマーケティングなどに関するハウツー本を読むと、大抵は、戦略や計画は次の順序で検討すべし、と書いてあります。

  1. 外部環境を調べ、理解する

  2. 社内外の資源について調べ、理解する

  3. 1と2をもとに、SWOT分析をする。一般的には強みと弱み、機会と脅威の2×2=4つのボックスのマトリクスを作る。

  4. 4つのボックスで何をやるか、やらないか、を考える(=これを戦略やプランと呼ぶ)

「1と2はどっちから始めても良いそうだ。2は自分たちのことだからすぐに分かりそうなので、よくわからない「外部」の方を先にやろう」という感じで1.から始めるという場合が多いようです。


外部環境を調べるとき、90%以上の割合(当社調べ)で最初にやるのは「市場規模を調べる」です。市場規模は増えている、横ばい、増減を繰り返していて周期性は見られない、など、様々な場合がありますが、「過去3年間増えてきたから今後も増える」というのはあまりに乱暴な話だな、でもこれだけでは何も気の利いたことが言えないな、ということで、次に行うのは「細分化」と「要因分析」です。


「細分化」は市場をどんどん細かく分解することです。顧客軸、商品カテゴリ軸、地域軸、チャネル軸、用途軸など、様々な切り口で分解しようとすることです。セグメンテーションと言われることもあります。


もう一つの「要因分析」にはマクロ的な要因の分析とミクロ的な要因の分析があり、マクロ的な要因分析の代表格が「PEST分析」です。P(Politics)は政治情勢や規制の強化・緩和の動向、E(Economy)はマクロ経済の動向、S(Society)は社会情勢で、人口やライフスタイル、住居、消費支出、インフラ整備の動向など、T(Technology)は技術動向を調べて、将来どうなりそうかを予測するのがPEST分析と言われています。


ミクロ的な要因分析は、いわゆる消費者調査で、「何を買いたいですか?いくらなら払いますか?」というような質問をアンケートやインタビューなどで尋ねて、集計するというものです。



ナゾの一般的実務慣行

実際に調査してみると、それぞれについて疑問が湧いてきます。

  • 細分化って、どんな軸で切り分ければ良いの?どこまで細かくすれば十分なの?

  • PEST分析って一言で言っちゃってるけど、範囲が広すぎじゃない?それぞれ何に注目すればいいの?自分たちの知りたいテーマについて専門家が予測してくれていないときはどうすればいいの?

  • 消費者調査って何を聞けばいいの?集計結果から言えることって「おにぎりは朝にコンビニで買う人の割合が最も多く45%だった」ぐらいだけど、いいの?

では、実際にはどうしているのか。上司や前任者に聞くと、次のような答えが返ってきます。そして、さらなる疑問が湧いてきます。

  • どこまで細分化すればいいかって?それは「いろんな軸で、できるだけ細かく」だ。(答えになってなくないですか?)

  • PEST分析は我が社に関係するものでいいんですよ。(それがわからないから困ってるんですけど...) あと、調べただけじゃなくて、それが我が社に与える影響も考えた方がいいですね。(景気が悪くなるとウチの業績も悪化する、っていう話でいいの?)

  • 市場の要因分析の消費者調査は意向じゃないから、基本5W1H(いつ誰が何をどこでなぜどうやっていくらで買ったんですか?)で、あとはブランドイメージとか聞いておくといいんじゃない?何人に聞けばいいか?予算によるけど、数百ってところかな。(ブランドイメージを聞いてどうするんだろう?イメージの選択肢って何種類にどうやって分ければいいの?サンプル数は予算で決めていいもんなの?)


自分たちでもいろいろ調べてみて、調査会社にもお願いして、結構な外注費と人件費と時間を使って外部環境を調べたわりには、2.の自社の資源の調査は大抵チャチャっと済まされます。理由は、自社のことは調べなくても分かっている、外部環境の分析で疲れてしまった、自社の何を調べていいかよく分からない、などがあります。


そして難関がSWOT分析です。調べたことをどこに入れればいいか分からないので、とりあえず2×2に分けてみて、4つのボックスの中身を考えるけど、ありきたりなことしか言えない。


そこで、ストーリー(物語)を作ることになります。すると、調査した内容とは無関係に部長や課長の(直感による)案が出てきて、それが正しく見えるように調査したデータをグラフにして貼り付けるが、よく見るとグラフから言えることが一般的すぎて戦略案の根拠として弱いけど仕方がないね、ということが一般的な慣行として行われます。


せっかく集めた情報のうち使われるのは10〜30%ぐらいで、残りは一般教養として社内の経済評論家的立ち位置の方に喜んで読まれてお終い。アウトプットの役には立たなかったけど「よくあそこまで調べたね〜」と褒めてもらえれば、まいっかという気にさせてくれます。


なぜかなりのコストと時間をかけて調査した情報がほとんど役に立たずに終わってしまうのでしょうか。

その原因は、最初に述べた検討順序

  1. 外部環境を調べ、理解する

  2. 社内外の資源について調べ、理解する

  3. 1と2をもとに、SWOT分析をする。一般的には強みと弱み、機会と脅威の2×2=4つのボックスのマトリクスを作る。

  4. 4つのボックスで何をやるか、やらないか、を考える

にあります。

「調べる」から始めるから焦点が定まらず、無駄な調査ばかりで、本当に必要な情報は手に入れていなかった、ということになるのです。



あるべき順序は?

では、どういう順序で進めれば良いのでしょうか?

それは、

  1. 自分たちが何を決めようとしているのかを具体化する

  2. 現実に取りうる選択肢を洗い出す(必要に応じて選択肢を修正する)

  3. 何がどうならどの選択肢になるのか、選択基準を明確に設定する

  4. (ここでようやく)各選択肢を選択基準で評価するために必要最低限の情報を調べる。必要に応じて、予測・推計・シミュレーションを行う。

  5. 選択肢を選択基準に従って評価して選択する

です。


ドラッカー先生は著書のなかでこうおっしゃっておられます。(P.F.ドラッカー「経営者の条件」ダイヤモンド社(上田惇夫訳) - 第7章 成果をあげる意思決定とは)

  • 意思決定とは判断である。いくつかの選択肢からの選択である。(中略)一方が他方よりも多分正しいだろうとさえいえない二つの行動からの選択である。

  • 意思決定についての文献のほとんどが、まず事実を探せという。だが、成果をあげる者は事実からはスタートできないことを知っている。誰もが自分の意見からスタートする。しかし、意見は未検証の仮説にすぎず、したがって現実に検証されなければならない。そもそも何が事実であるかを確定するには、有意性の基準、特に評価の基準についての決定が必要である。これが成果をあげる決定の要であり、通常最も判断の分かれるところである。

  • 最初に事実を把握することはできない。有意性の基準がなければ事実というものがありえない。事象そのものは事実ではない。

  • 最初から事実を探すことは好ましいことではない。すでに決めている結論を裏づける事実を探すだけになる。見つけたい事実を探せない者はいない。


ドラッカー先生が50年以上も前におっしゃてくださっていたのに、まだ一般的な実務慣行は「事実を探せ」からスタートしています。その結果、結構なコストと時間をかけたにもかかわらず、なかなか成果に繋がらないという、残念な状況がいたるところで発生しています。


アトラトルは「経営の自動運転化」というコンセプトで、この状況を変えていこうと考えています。そこで次回からは、具体的にどうやって進めていけばいいのか、について述べてみたいと思います。


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