top of page

競合分析は競合の何を分析するのか

執筆者の写真: ATLATLATLATL


コンペ相手の出し値を5%の誤差で当てられるか?

以前、あるクライアントの副社長が「私は現役の営業マン時代、コンペ相手の出し値を事前に分かっていた」とおっしゃっていました。その方は「俺は昔ヤクザ10人と喧嘩してボコボコにしてやった」的な武勇伝を話す方なので半信半疑だったのですが、「疑ってるだろ。ほれ、証拠だ。」と言って、年季の入った手帳を見せてくださいました。


そこには、過去のコンペ案件一つ一つについて、コンペ相手とその予想出し値と実際の出し値がが記載されていました。正確に計算したわけではないですが、誤差は5%以内というところでした。


「内部情報を手に入れていたわけではないぞ。そんなもの、どの会社の営業マンも教えてくれるわけがない。じゃ、なぜ分かっていたかというと、その会社の状況を分析して推測していたんだ。」



競合分析の目的は「打ち手の予測」

よく「3C分析」と言われますが、弊社にお問い合わせいただくお話の80%は顧客に関するもので、競合に関するものは20%未満です。その内容も、「競合のブランド別売上高「や「市場シェア」といった売上高に関するものがほとんどで、「競合の商品に対する顧客の評価の調査・分析」と一緒にご依頼いただくことが多いです。


このような「売上高」と「顧客が評価しているポイント」を知ってどうするのかというと、「もしその商品が売れているなら高評価のポイントを自社商品に取り入れる」、つまり「パクるため」ということになります。


もちろん、このような"Me, too"戦略が無意味ということではありません。市場シェアトップの企業が2位以下の企業によるシェア奪取の芽を摘むために、自社と差別化した商品が出たらそれをすぐにパクって市場シェアを防衛するというのは戦略の常套手段です。


ですが、それはすでに他社と差別化できていて市場シェアトップの地位を築いている企業だから有効なのであって、事業の本質はいかに競合と差別化して顧客を獲得するかです。



「いやいや、アトラトルさん、うちも競合商品のスペックは調べていますよ。そして、自社が差別化できるように競合のスペックを上回る商品を開発しています。」と言われるお客様は多いです。


しかし、自社が商品を開発中ということは当然他社も開発中なので、競合商品の現行モデルを上回る商品を出したらその直後に競合はさらにそれを上回る新商品を出してきた、なんてことがよく起こります。


これは競合企業が行なった現行商品のスペックの決定という過去の行動を追いかけているからこうなるわけで、本来は「競合が次に出してくる商品はどういうものか」を知って、それと差別化できる商品を開発しなければなりません。


つまり、競合分析の本来の目的は、

  1. 競合が次に行うであろうアクションを見抜くこと

  2. 自社が行うアクションに対する競合のリアクションを予想できるようになること

になります。



内部情報を調査するのではなく、公開情報をもとに予測する

競合の打ち手を調査によって知ろうとすると、当然そんな情報は表には転がっていませんから、内部情報を入手するしかない!ということになります。弊社にもそういうお問い合わせが来ることがあります。


よくネットニュースなどで「次期iPhoneの情報が流出!次はカメラが10個搭載!」的な記事が出ることがあるので、普通の企業の内部情報も取ろうと思えば取れるんじゃないか、と思われがちですが、商品開発、価格、販売方法などに関する事前の情報は簡単には取得できません。


そこで、公開情報をもとに推測することになるわけですが、冒頭のコンペ相手の価格を推測したという話は、どうやって推測していたのでしょうか。


その副社長の方は、こうおっしゃっていました。


「この前のコンペの時はX社の値段を当てた。ピッタリだった。あの会社はもともと政府系だっただろ?工場をたくさん持っていて生産能力が大きいのは良いんだが、昔から受注が落ちてくると、稼働率を維持するために大量に受注できるなら安値でも取りに行ってたんだ。歴代の経営者は自分の任期中の減損は避けたいと思っていて、今の社長も決算説明会で減損の必要はありませんって主張していた。だから、受注が落ちてくると、原価割れでも工場の稼働のために取りに行け!と指示が出るんだろう。


そこで、財務諸表から簡単に変動費を計算してみたんだが、今までのパターンからすると、下手したらその変動費ギリギリで価格を出してくるんじゃないかと思った。


前回のコンペの時はうちが受注したから、うちをひっくり返すためにはそれぐらいの無茶をやってくるだろうと予測して、あの金額を予想した。


で、もし相手がその金額で出すとなると、うちはさらに安い価格を出すべきか?ってことを考えなくちゃいけない。うちは向こうより固定費が少ない分変動費が高いから、あの価格では勝負できない。だから、向こうの予想金額の少し上の値段を出して、あえて負けようと。その代わりこういうサービスとオプションが付けられますよ、という次に繋がるような提案にしたんだ。」



予想外の出来事や追い込まれたときの行動からその企業の行動原理を知る

この方は競合の価格を予測するのに内部情報は全く使っていませんでした。その代わり、決算説明会でのトップの発言、財務諸表、過去の価格のパターンなどから推測していました。


特に重要なのが、予想外の出来事や業績悪化など追い込まれたときにその企業がどういう行動に出たかを継続的に調査し、そこから行動原理を導き出されていたことでした。


これは個人にも当てはまります。真っ当な社会人なら、普段から性格むき出しでいる人は少ないです(いないわけではないですが)。通常は社会人としての仮面を被っています。そうしないと、社会生活上支障が出るからですね。


しかし、予想外の出来事や追い込まれた状況下では、人は本性を出します。その行動は、その人の性格、価値観、過去の体験などによって異なりますが、その個人の行動を継続的に追いかけてみれば、一定のパターンやサイクルがあることがわかります。


人間の集まりである企業も同じです。その企業が予想外の出来事に直面したり業績悪化など追い込まれた状況で、どのタイミングで何を行なったのかを継続的に調べてみると、目には見えない企業風土、価値観や行動規範、暗黙の制約や足枷せなどの行動原理が見えてきます。そして、その行動原理を今の状況に当てはめたとき、どういう行動に出るかは、ある確率の範囲内で予想することが可能です。


アトラトルは競合分析も行なっていますが、弊社が行う競合分析はスポット的に打ち手を予測するというより、体系的・継続的な調査とメソッドに従った予測を行う業務構築のご支援です。


では、どういう体制とメソッドが必要となるのでしょうか?それについて、次回以降、書いてみたいと思います。


>> アトラトルのサービスメニューはこちら

Comments


bottom of page