
市場調査における古典的名著と言ってもいい書籍に「販売の科学」(著:唐津一)があります。この中に「市場の断層」というユニークな、でも言われていればその通りの調査の視点が紹介されています。
--- 引用ここから ---
ここでいう市場の断層とは、今あげたような値下げとか、売り出しとかはもちろん、広告が行われたときとか、誰かが死んだときとか、そのほか人為的なものでなくても、台風、大火災のような事件があったとか、とにかくなんらかの形で、市場に対して影響をおよぼしたと考えられる場合のすべてである。
これらの事件があったことは、市場で大きな実験が行われたことに相当する。そして、そのような断層の生じたときは、時を失せず、あらゆる手段を尽くして、その前後の変化を調べよ!ということである。
(中略)
市場で何らかの変動が起こると、日頃わからなかった問題が、たちどころに知れる、それは個人についても、国家についても、何か突然事故があったとき、その性格がむき出しになることと、まったく同じことである。だが、これはいつ突発するかわからないことが多いから、年中網を張っておけということである。
--- 引用終わり---
ここには例示されていませんが、台風や大火災のような事件よりもさらにインパクトの大きな大事件がコロナショックですね。コロナショックによって、世界中の市場に大きな断層が生まれました。そして、この断層は市場調査の観点からいうと、いろいろなことが分かりすぎて困るというぐらい調査・分析の好機でもあります。
例えば、コロナショック以前、その業界で同じようなポジションにあると思われた2社があったとします。コロナショックになって数ヶ月経ち、一方の会社は大赤字になったが、もう一つの会社は黒字をキープしているという差が生まれたとします。これは一見同じようなポジションに見えるが実はコスト構造や、価格交渉力や顧客セグメントが異なっていることを示しています。
また、コロナショックに対する見通しと対応の早さ/速さも分かるようになります。あまり外からは見えなかった、その企業の意思決定のプロセスやリーダーシップ、危機意識や企業文化といった「性格がむき出しになる」ためです。個人でも追い込まれるとその人の本性が現れるのと同じですね。
また、顧客の動向やニーズを知る上でもコロナ前後分析は有効です。自社の商品・サービスはお客さんにとってMustなものなのか、あったらいいな(Nice to have)レベルなのか、感染リスクがあるため購入を控えていたが、一定期間経って我慢できずに購入してくださるお客様はどういう方でどのぐらいいらっしゃるのか、我慢の限界の期間はどのぐらいなのか、消えたニーズはどこにいったのか、何が代替商品になっているのか、といったことも分かるようになります。
コロナが収束しない間は未来の市場を正確に予測するのは難しいですし、意識調査などでは軒並み「控えようと思っている」という回答が多くなり、調査・分析をしてもコロナ以前との一貫性が保てないという状況になります。そのため、調査しても仕方がないという意見を持たれるかもしれません。しかし、昨年と一貫性が保てないことが「市場の断層」であるわけなので、このコロナショックは競合企業や顧客(および自社)の「露わになった性格」を知るまたとない機会と言えるでしょう。
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