
先日調査会社さんからご紹介いただいた、消費財メーカーのマーケット調査部門の方との打ち合わせの中で、こんな話がありました。
「消費者が商品をどうやって購入し、いつどういう目的で誰とどうやって使っているか、網羅的に調べたいんです。競合他社の商品を含め、カテゴリ全体を知りたいと思っています。」
調査会社の営業の方はすかさず
「どれぐらいのサンプル数で、情報の取得頻度はどれぐらい必要ですか?」と質問され、
マーケット調査部門の方は「サンプル数は数百人は欲しい。頻度は毎日取りたい。」というお答えでした。
話が調査の細かい要件へ進んでいく中、弊社が割り込みます。
「確かに詳細な情報は意思決定に必要ですが、情報量が多すぎると当然価格も高くなります。その投資に見合うだけのリターンを得ないと経営的には説明がつきませんが、このデータをどう使う計画ですか?」
「まだ具体的には決まってないんですが、色々使えるようにしたい。データを取り溜めたら、商品開発部門や営業部門に渡して自由に使ってもらおうと思っています。」
「それでは使われないですよ。まずは、商品開発や営業の部門がどういう施策を行なっていて、それを決定するためにどんな情報が必要かをヒアリングするのが良いと思います。」
「うちらはマーケティング部門なので、商品開発や営業が何をやるべきかは各部門が考えるべきこと。うちらが口出しするところじゃないんです。」
その後数ヶ月経って、その方から「相談したいことがある」とご連絡をいただき、話を伺いました。
「消費者調査のデータは着々と集まってきています。先日それを社長に報告したところ、『この調査には数千万円かかっている。それを使って何ができるのか教えて欲しい』と言われました。商品開発や営業の部門に聞いたら、『使うイメージが湧かない』『うちは特に必要ないと思う』と言われてしまいました。近いうちに社長に報告しないといけないんですが、何か分析できませんか?」
「商品開発、営業、広告宣伝などの施策を考えている企画担当の方に、日々どういう施策をしているのか、どんな情報を見ているのか、インタビューしていただくことはできますか?」
「そんな時間もないので、まずはこのデータだけで何か分析してもらえませんか?」
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こういったご相談は、この会社さんに限らず、色々な企業でお聞きします。
企業規模が大きくなると、バックオフィスに「マーケティング部門」ができ、その中で「データを取得し整理・管理する組織」ができるようになります。
データは現業部門(フロントオフィス)の役に立って利益に貢献するものでなければなりませんので、当初は現業部門に近い組織が情報ニーズを聞き、データを取得、集計、分析します。すると、「いろんな部署で同じような市場調査をするなら、一箇所に集めたほうが効率的だろう」ということになり、バックオフィスに集約されます。
そうなると、現業部門とデータ取得部門が切り離されて、データ取得が目的化するようになります。そうなると、組織は自分たちのプレゼンスを上げる方向に働きますから、「より詳細で、より精度が高く、より網羅的で、より広範囲で、より多くの種類のデータ」を集めることになり、人員もコスト(=投資)も膨らんでいきます。(それを調査会社、DBを作りたいITシステム会社などが助長します。)
その結果、多額のコストをかけたものの大して使われない無用の長物が出来上がってしまい、最悪の場合、「データなんて集めたって意味がない」という風潮が生じ、客観的な根拠に基づく経営から遠ざかってしまいます。
では、少ない投資で最大のリターンを得るためにはどうしたら良いのか。それは調査分析の目的を「知るため」から「行うため」へ転換することです。
次回から、その方法について述べていきます。
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