
データ分析を自前でできるようになるには、どうしたらいいですか?
弊社は企業の経営企画室やマーケティング部門の方とお話しさせていただく機会が多く、その中でしばしばいただく質問に、
「私たちもアトラトルさんのようなデータ分析を自前でできるようになりたいんですが、どうしたらいいですか?」
というものがあります。
データの調査分析を自前でやるというのは、もしかすると内閣情報調査室のように「次に北朝鮮がミサイルを発射するのはいつか?」といったお題に対しても答えを出せるような、高度な調査と分析の能力を持った集団をイメージされているのかもしれません。
そして、自前でデータ分析部署を持とうとする企業は、予算があれば多額の費用をかけてDMP(Data Management Platform)を呼ばれるデータベースを作られます。
せっかくDMPを作ったものの、これをどうやって活かしたらいいのかが分からないので、「データはあるんだから、あと足りないのは能力だ」ということで、自前で調査・分析能力を身につけよう!という方針になるようです。
しかし、私たちが今までお世話になったクライアントでデータを上手に経営戦略に反映されている企業が、高度な調査・分析能力を自前で持っているかというと、必ずしもそうではありません。「統計とか難しいことはよく分かりません」という企業がほとんどです。
では、企業がデータを経営戦略に反映するために自前で持つべき機能とは何なのでしょうか?
データ調査分析機能を自前で持つことは得策か
まず、データ分析の機能を自社内に持つことを考えてみます。
1. 自前で体制を作ろうとすると、大掛かりにならざるをえない
毎日ニュースリリースで発表されるような機械学習を使った予測・推測は、主に現場のオペレーション効率を高めるためのものです。
そこで使われる機械学習などの技術はとても高度ですが、効率化したいオペレーションは特定されているため、使うデータ型や技術の種類はそれほど広くありません。したがって、必要な技術は「深く狭く」になります。
一方、経営企画やマーケティングで使う分析技術は「広く浅く」です。経営戦略などを立案する際のデータ型は、数値、カテゴリ、文章など様々で、それを分析する方法も、数値であれば、線形回帰、分類、時系列、次元圧縮、非線形回帰、最適化などがありますし、文章であれば、文字抽出、単語分解、係り受け解析、品詞推定、文字の数値化などがあります。そして、それに合わせて前処理の方法も異なります。
さらに、それら一つ一つに理論と実務テクニックが必要です。そのため、初心者数名でこれらを習得するにはかなりの時間がかかります。また、分析技術はどんどん進歩していきますから、そのアップデートも必要になります。
ですので、自前で全部やろうという場合には、まさに内閣情報調査室レベルの人員体制が必要になってしまいます。
2. 調査・分析の外注費用は下がっていく
「自前でやるのが大変なのはわかっているけど外注すると高くつくから、自前でやらざるを得ない」というお声もよくお聞きします。
しかし、最近は調査・分析をリーズナブルな価格で請負う業者が出てきています。手前味噌ですが、弊社アトラトルは以前お客様から「某広告代理店の分析提案より2桁安い」と言われたことがあります。もちろん提案内容が違うので単純比較はできませんが、大型のプロジェクトを数千万円で請負いますというスタイルではなく、小さな案件を数十万〜数百万円前半で探索的に実施する業者も出てきています。
ちなみに、書籍「予測マシンの世紀」(アジェイ・アグラワル他著)にはこう書かれています。
---- では、新しいAI技術によって何が安くなるのだろう。それは予測だ。
今後、分析ツールが進歩し参入業者が増えていくことで、予測分析などのサービスの価格はムーアの法則とまではいかないかもしれませんが、どんどん下がっていくでしょう。
3. 分析は事業内容の知識がなくてもできる
分析には理論と実務の両方の技術が必要になりますが、逆に、分析をするだけなら不要なものがあります。それは事業内容に関する知識です。
データ分析の結果は所詮データでしかありません。「AとBの相関係数は0.85です」「CとDを購入した20代女性がEを買う確率は45%です」「商品FとGのユーザーレビューでは、Fの方がGより割安との評価が15%多いです」というようなものです。
この結果を算出するだけならこの事業に関する知識はほぼ不要です。商品Fが自動車でもシャンプーでも同じような分析手法が使えます。だから分析屋にもできるわけです。
ここで、この分析結果に対して答えるべき問いがあります。そして、事業内容を深く知らなければ考えられないので、単なる分析屋には答えられない問いです。
その問いとは、「この結果は何を示唆しているのか?」です。
自前でやるべきは「データからの示唆出し」
「この結果は何を示唆しているのか?」は、分析前に「こういう結果になるだろう」という予想とは違う結果が出た時によく発せられます。例えば、
気温が上がると商品Aの販売量は増えるが、商品Bの販売量は減る
消費者の所得が増えると商品Cの販売量は増えるが、所得が一定以上になると販売量が減り始める
などです。
分析屋の仕事としてはここで終わりですが、戦略家やマーケッターの仕事は「この結果は何を示唆しているのか?」「なぜこうなるのか?」「何が起きているのか?」と問うことで始まります。
例えば、「所得が一定以上になると、上位の商品カテゴリを買うようになるからではないか(バイクに乗っていた人が自動車に乗るようになるなど)」といった示唆から、上位に位置する商品カテゴリを作ってそこに誘導しよう、という施策案が生まれるわけです。
この問いへの答えは分析のための入力データからは導けないことがほとんどで、商品の特徴、消費者の行動態様などの知識が必要になってきます。これは単なるデータ分析屋ではできず、その事業内容を知る人でないとできません。
このように見れば、限られた人員が自前でできるようになるべきは、データの分析なのか、分析結果からの示唆出しなのか、答えは明らかです。
もっとも得策なのは、データ分析は技術習得に時間がかかるし事業知識は不要なのでリーズナブルに外注し、分析結果が示唆するメッセージを読み取ることに貴重な人材を当てることなのです。
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